スミタス小説家を買う

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スミタス小説「おひとりさま、家を買う」(17)

スミタス小説「おひとりさま、家を買う」(17)

スミタス

中古住宅が売買されるまでには、いくつものストーリーがあります。売主家族、買主家族、不動産業者やリフォーム業者など、売買に関わる人たち全てに日々の生活があり、人生があり、考えも思いもさまざま。

そんな、家の売買にまつわる物語をお届けするシリーズ。
第2弾の主人公は、東京の独身OLで実家暮らしをしている30代半ばの“私”です。

周囲に流されて始めた婚活を辞め、自分のやりたいことをやると決めた“私”は、昔からの夢だった“カッコイイ”自分の家を持つことや憧れの北海道で暮らすこと、趣味のサーフィンやスノーボードをもっと楽しむこと、大きな犬を飼うことetc…に思いを馳せ、夢の実現に向かって行動を開始します。

紆余曲折を経て「札幌市内で中古マンションを購入してリノベーションする」というアイディアにたどり着いた“私”。中古物件に強く建物診断やリフォーム・リノベーションなどのサポートまでをワンストップで請け負ってもらえる不動産関連企業と出会い、ついには“自分の家”となる物件を決め、家づくりの計画を具体的に進めていくことに。

そんな中、“私”の兄夫婦との同居に向けて実家をリフォーム予定の母が、突然“私”との同居を希望したため、“私”は当初の予定を変更し、家族が長期間滞在でき、行き来しやすいような家へとリノベーション計画を変更します。

家族間のわだかまりが心残りだった“私”ですが、“私”がとあるペットショップで出会ったた猫と、父が知人から譲り受けた仔猫、2匹の猫が縁となり、完全な雪解けとはいかないものの、まずは父と母が和解。母は自分の思いの丈を語り、東京に残ることを決めます。

一方、“私”の家は完成間近。父と母、そして“私”の3人で引き渡しに立ち会うことになって…。

(第17回)最後の日の食卓

スミタス

思えば、私には生まれた時から兄がいたから、子供の頃「家族でどこかに出かける」といえばいつも4人だった。とはいえ、兄が結婚してからは3人家族だったから、両親と私の3人の組み合わせは別に妙なことではないはず。

でも、こうして3人で飛行機に乗っていると、なんとも不思議で味わったことのない気分なのだった。

「バカね。帰りの飛行機は、あなたはいないのよ。お別れなんだもの。いつもと違う気分になるのは当たり前よ」
母が笑う。

「そっか。そうだね」
私は静かに目をつぶった。眠りに入る頃には札幌についてしまうだろうけれど、昨日までほとんどしっかり眠れていないので、少しでも眠っておこうと思ったのだ。
とうとう私の家が完成した。あれこれ迷ったりワガママを言ったり、変更もたくさんしたのに、一番最初に提案されていた工期日程とほとんどズレることなく、無事に私の家がが完成した。

札幌で仕事を始める日を伝えていたので、ずいぶん担当者さんが心配してくれて骨を折ってくれたみたいだった。

ずいぶん前から準備してきたので仕事関係はほとんど滞りなく引き継ぎができたし、出向先での業務の準備や心構えもほぼバッチリなのだけど、実家のリフォーム問題や連日のお別れ会で、東京から運ぶ分の荷造りなどはバタバタしてしまい、あまり眠る時間も感慨にふける暇もなかったのだった。

これは言い訳だけど、我が家の新しい家族に夢中だったのも荷造りがはかどらなかった理由のひとつ。ほんの数週間一緒にいただけなのに、すっかり別れ難くなってしまった。引っ越しにかかるこの数日間は、もともとあの仔が生まれた家、つまり父の知人があの仔を数日預かってくれることになったので、家を空けている間のことはなんにも心配いらないはずなのだけれど、なんとなく両親ともやきもきしているのが分かって微笑ましい。

札幌に着いたら、ようやく私も、私のあの仔にも会える。
飛行機のベルト着用サインが消えた。
うとうとしながら、私は昨日の夕食を思い出していた。

スミタス

父と母、私がリフォーム前のこの家で、そして3人で食事をするのも最後。
それは分かっていたのだけど、クローゼットの中の不用品がまだ少し片付いていなくて、私は少し遅れてテーブルに付き、そそくさと食事をすませて続きにとりかかるつもりだった。ここ数日はずっとこんな感じだった。

晩ごはんは私の好きな炊き込みご飯だった。

「作り方、教わっておけばよかったな」
ふと、口をついて出た言葉だった。

「だから、料理のお手伝いくらいしなさい、っていつも言ってたじゃないの。でも、まぁあなたが帰省した時か、あなたの家に遊びに行った時にでも教えてあげるわよ」
母の声はほんの少し詰まっていた気がしたけど、顔をみるといつも通りの笑顔だった。

「そっか、そうだね」

「それにしても、お前はこのところずっとバタバタしてるけど、そんな計画性のない様子で、この先一人暮らしが務まるのか」
父の小言もいつも通りだった。

「大丈夫だよ。それはそれ。これはこれ」

私の返事もいつも通りだ。
今思うと、いつも通りにしているのに、でもやっぱりどこか3人の間には「無理にでもいつも通りにしよう」という雰囲気があった気がする。

そのまま食事を終え、早々に食器を下げながら
「あのさ、今まで、お世話に…」
言いかけたところで、涙がこみ上げてきた。

「ん?」
「何か言った?」
父も母も、よく聞き取れない、という感じで聞き返してきた。こうなると恥ずかしくてもう次の言葉がつながらない。

「あのさ、なんかデザートある?」
顔を上げると、言いたいこととは全く違う言葉が出てきた。

「冷蔵庫にいただきもののゼリーがあるわよ」
「オッケー」

顔を上げてふざけた顔のまま、二階に上がった。
それから、きょう空港に向かうため家を出る時まで、またまたバタバタしてしまったので、結局、ちゃんと両親への感謝の気持ちを伝えていない。
なかなか気持ちを言葉に表すことができない私達家族だけれど、ついこの間、母が自分の気持ちをしっかり語ったことで、「見習おう」なんて思っていたばかりだったのにな。

そんなことを考えながら、すっかり眠ってしまったようで、目覚めたら千歳空港だった。

「いったん、まっすぐ札幌の家に行って鍵を受け取るのよね?」
母がワクワクした顔で言う。

「どんな家になっているんだろうな」
父もなんだか楽しそうだ。

飛行機に乗っている間の、センチメンタルな感情は私もいったん捨てよう。
さぁ、いざ“私の家”へ!(続く)

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