スミタス小説家を買う

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スミタス小説「おひとりさま、家を買う」(18)

スミタス小説「おひとりさま、家を買う」(18)

スミタス

中古住宅が売買されるまでには、いくつものストーリーがあります。売主家族、買主家族、不動産業者やリフォーム業者など、売買に関わる人たち全てに日々の生活があり、人生があり、考えや思いもさまざま。

そんな、家の売買にまつわる物語をお届けするシリーズ。
第2弾の主人公は、東京の独身OLで実家暮らしをしている30代半ばの“私”です。

周囲に流されて始めた婚活を辞め、自分のやりたいことをやると決めた“私”。

昔からの夢だった“カッコイイ”自分の家を持つことや、憧れの北海道で暮らすこと、趣味のサーフィンやスノーボードをもっと楽しむこと、ペットを飼うことetc…に思いを馳せます。やがて夢は具体的な形となり「札幌市内で中古マンションを購入してリノベーションする」と決意。実現に向かって行動していきます。

さまざまな問題にぶつかりながらも、中古物件に強く建物診断やリフォーム・リノベーションなどのサポートまでをワンストップで請け負ってもらえる不動産関連企業と出会えたことで、無事に物件が決まり、家づくりの計画が進みます。

そんな中“私”は、家族間の問題とも向き合うことに。兄夫婦との同居に向けて実家をリフォーム予定の母が、突然“私”との同居を希望。“私”は1人暮らし用にと考えていたリフォームプランを、家族が長期間滞在でき、行き来しやすいようなスタイルへと変更します。

仕事の都合で何度も札幌へは足を運べないものの、電話でしっかりやり取りを進めながら、工事は着々と進行。リフォームの完成は目前に。

家族間のわだかまりが心残りだった“私”ですが、“私”がとあるペットショップで出会ったた猫と、父が知人から譲り受けた仔猫、2匹の猫が縁となり、父と母が和解。母は自分の思いの丈を“私”と父に語り、東京に残ることを決めます。

そしてついに“私”の旅立ちの日。父と母、“私”の3人で新居の引き渡しに立ち会うため、家族3人で札幌へと向かい…。

(第18回)私の家

スミタス

千歳からはレンタカーを借り、札幌までの道中は私が運転を務めた。
車中では、私の新しい家のことや、これからの私の暮らしのことでひとしきり盛り上がった。

「どんな家になっているか」「お洒落で綺麗(になっているはず)の家を、そのままの状態でキープしながら住み続けられるのか」「きちんと掃除ができるのか」「猫を迎えに行くタイミングは」などなど、話題は尽きることがなかった。3人とも緊張とワクワク感で、すっかり興奮状態だ。

そんな賑やかな私達だったけれど、カーナビが目的地周辺であることを告げると、急に3人とも神妙な空気になった。

「あぁ、あの建物か。思っていたより古ぼけて見えないな。天気が良いからかな」。

父がいち早く後部座席からマンションを見つけ、窓から周辺を見回している。マンションの築年数が古いことは、父が何度となく心配していたことだった。父のマンション外観に対するイメージは、心配して話題に出す度に、実物以上にどんどん古くて寂しい建物の印象に書き換えられてしまっていたようだった。

「外観もそうだけど、家の中なんて新築同然になっているんだから」
なぜか母が自分のことのように誇らしげに言う。
車を停め、緊張しながら3人でエントランスに入ると、担当者さんがニコニコして待っていてくれた。顔を合わせるのは久しぶりだけれど、家のことはもちろん、猫との暮らしについてまでも時々相談に乗ってもらっていたので、つい最近会ったばかりかのような感覚だ。

初対面同士の父と担当者さんが自己紹介を済ませた後、4人で部屋へ向かう。

「エレベーターもちゃんと動くようだな」

「心配しすぎだってば!当たり前でしょう。ここで暮らしているのは私だけじゃないんだから。それにさっきからキョロキョロし過ぎじゃない…?」

「共有部分の設備も気になるものですよね。安心していただくためにもお父様も一緒に来ていただいて良かったですね」
担当者さんの声も、きょうは一段と明るい気がする。

エレベーターのドアが開いた。

スミタス

鍵を受け取り、ほんの少し震える手で鍵を鍵穴に差し込んだ。
玄関から部屋につながるドアは開かれていて、光がたっぷり差し込んでいた。眩しくて一瞬目の前が真っ白になったのだけれど、目が慣れてきて、目の前に広がる世界を見ると、今度は目に涙が浮かんできて、また目の前がよく見えなくなってしまった。

「わぁ」とか「おぉ」とか母や父が感嘆の声を上げているようだったけれど、それもどこか少しだけ遠くで聞こえた。

涙でにじんだ目の前に映るのは、私がずっと憧れて、思い描いていた理想の部屋。ずっと夢見てきた景色だけれど、夢見ていた以上の空間だった。

キッチンにはシンボルツリーの丸太。一枚板のカウンター。
珪藻土の塗り壁。姪っ子や甥っ子たちが遊びにきたら宝物をしまっておきたくなるような、森の中の秘密基地のような部屋。

街中にある古いマンション。その中にこんな夢みたいな世界が広がっていることを知っているのは、私達だけ。

木の匂いを思いっきり吸い込むと少し落ち着いてきた。担当者さんが設備や変更箇所などについて説明してくれている声も、ようやくしっかり耳に届いてきた。

一通り説明が終わると、父が追加であれこれ担当者さんに尋ねている。定額制システムやワンストップでのリノベーション事業に興味津々らしく、ほとんど好奇心で質問をしているみたいだった。嫌な顔ひとつせず、カバンからパンフレットを出して、担当者さんが説明をしてくれているので、申し訳ない気持ちになった。

「なるほどなるほど。いやぁ娘の話だけでは、よくわからないところも多かったのでね。それにしても、全部お任せして本当に良かった。想像以上に素晴らしい家に生まれ変わって」
「もう、お父さんの家じゃないでしょう。まぁ、いつでも遊びにきても良いけどね…。2人が遊びに来た時に泊まれる部屋もあるんだからさ」
紆余曲折を経て、間取りを変更した時のことを思い出す。あの時は、母も一緒に打ち合わせについてきたんだっけ…。
「あぁ、そうだな。ちょくちょく来るとしよう。それでさっそくだけど、こっちの部屋にはゴルフバッグを置いて良いかな? ほら、このリビングのお前のサーフボードみたいにさ、飾ったらいいんじゃないか」

「イメージに合わないから絶対嫌」

母と担当者さんがくすくす笑いながら私と父のやりとりを見ていた(続く)

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