スミタス小説「中古の私が売れるまで(19)」

中古住宅が売買されるまでには、いくつもの物語があります。売主、買主家族、不動産業者などの売買に関わる人たちには生活があり、人生があり、考えも思いもさまざま。
そして、もし“家”そのものにも感情があって思いがあるとしたら?
“家”はどんな思いで自分が売買されていくのを見つめているのでしょう。
そんな“家”の視点から見た中古住宅売買の物語第19弾。
家主の高齢化により、売りに出されることに決まった主人公の“家”こと私。
「家を売却する」という初めての出来事に立ちはだかる数々の困難を乗り越え、理想的な形で買主に“私”を買い取ってもらうことができた売主夫婦は、高齢者向けマンションへと引っ越していきました。
一抹の寂しさを覚えつつ、買主の手に渡った“私”は、建物診断を経て計画されたリフォームを施されていきます。“見た目”にはそこそこの自信があった私ですが、築40年とあってじっくり時間をかけてお直しし、生まれ変わることに。
売主の苦労を見てきた“私”ですが、買主側にもさまざまな葛藤や迷いがあることを知ります。一難去ってはまた一難。売主夫婦の思いを受け継ぎながら、買主夫婦の家づくりが進んでいきますが…!?
(第19回)“私”、外国人になる!?

一時はどうなることかと思われた「カエデの木事件」。
樹木医や設計士に相談し、カーポートの屋根の一部を特殊なつくりにすることで、カエデの木はそのままで良い、ということになったみたい。
予算も変わるので、その点についても何度も話し合いこの問題は無事解決。私としても、40年来の“友人”と離れずに済んだことに、実はホッとしているところ。日々進むリフォーム工事で、私は今や元々の姿とはすっかり変わってきた。ピカピカのクロスや壁は気持ちが良いけれど、やっぱりなんだかまだ見慣れなくて変な感じ。
当初からそんな気がしていたのだけれど、買主夫婦は家というものへの思いがとても強い人たちのようで、時間を見つけては工事の様子を覗きに来たり、「ここは自分たちの手で」と決めていた3匹の猫たちのための部屋のDIY計画を立てたりして楽しんでいる。
売主夫婦たちも、“私”が建てられている間、度々こうして訪れては完成の日を待ちわびていたっけ。

リフォームはほぼ工期通りに済み、ほぼ人が住める状態になった。
壁紙やクロス、じっくりデザイナーさんと相談しながら決めていった新しい“私”は、まるで“外国人”になったみたい。
というのも、買主夫婦が思い描いている理想のデザインは、トレンドのブルックリン調と呼ばれるデザインなのだそうで、レンガ調の壁や足場板の飾り棚が取り付けられたり、インテリアもヴィンテージ感のあるものを選んだりしたりしている様子。
売主夫婦から譲り受けたダイニングテーブル。いくら良いものだとはいえ、あんな古臭いデザインの家具は、若いご夫婦の住まいだと悪目立ちしてしまうんじゃ…?なんて勝手に心配していたのだけれど、そのまま使ってもしっくり馴染みそう。
実はカーポートや内装のデザインにこだわり抜いたせいで、予算は思いのほかオーバーしてしまった模様。なので、「その分をどこかで抑えよう」ということになったみたいなのだけれど、ダイニングテーブル同様、安く購入できるユーズドの家具をインターネットなども使いながらじっくり探すことにしたみたい。
それでも予想外のひとつひとつを楽しめるくらい2人のワクワクが伝わってくる。
2人と一緒に暮らす日も、もう間もなくだ。(続く)